人々が集う宿泊業にこそ機能するBCPが必要。

 宿泊業の使命として、”宿泊客に快適性を提供する”、などがあげられると思いますが、なんといっても最大の使命は”宿泊客の生命と財産を守る。”ことに尽きるでしょう。また、最近ではコロナ禍でホテルなどが感染者の滞在先として利用されたように、宿泊客のみならず、人々の安心・安全に貢献することも期待される傾向にあります。危機に際しては、社会からも大きな期待が寄せられる宿泊業にとって、その備えとなるBCPの策定は必須です。ここでは宿泊業でBCPを策定する場合の考慮事項等について説明します。

宿泊業におけるBCPの特性・課題

 ”宿泊客の生命と財産を守る。”ことに加えて、危機の際には社会に安全・安心を提供することを期待される宿泊業。感染症や自然災害において避難所等としても機能し得ることも踏まえて、BCPの特性などを列挙します。

宿泊業の一般的な特性(他業界との比較) 事象リスクにおける細部リスク例
一般的に従業員等のサービスが不可欠→出勤の困難化、職場復帰の長期化、従業員等の被災・感染等
電気、上下水などのライフラインに大きく依拠→電気、上下水などのインフラが機能しない場合、オペレーションに大きく影響
食料など流通インフラに大きく依拠→食料・水などの入荷に大きく影響
サプライチェーンに大きく依拠→クリーニング、清掃など取引先等のオペレーションに大きく影響
宿泊客、受け入れ客の安全確保が第一義→・火災、倒壊、設備の倒壊などにより宿泊客、受け入れ客の安全が脅かされる恐れ。
・傷病者が発生した場合、医療機関、救急車などのキャパオーバーにより適切に処置できない恐れ。
被災者の避難所、集合場所等として期待される場合がある(平素から自治体などと協定を結び避難所として指定されている場合もある)。・キャパオーバーなどにより受け入れできない可能性

                  

使命を果たすために。宿泊業のBCPで考えるべきこと

 上記宿泊業の特性(他業界との比較)・リスクを考えると、危機事態が発生した場合、お客様を守ること、社会からの期待に応えることが簡単でないことが分かります。BCPを中心とした対策、備えがないと太刀打ちできないでしょう。宿泊業にとってBCPは必須の経営資源です。宿泊業の特性・リスクを踏まえて、宿泊業BCPで考えるべきことを説明します。

リスクアセスメント(RA)。リスクを知るとともに、地域の防災体制を把握しよう。

  • 例えば南海トラフ巨大地震が発生した場合、どのような被害が想定されるのか、自治体のハザードマップなどを利用して自社の宿泊施設ははどの程度の震度、津波な予想されるのかなどをしっかり把握しましょう。
  • 地域の防災体制を把握しましょう。給水所(※)、避難所、臨時救護施設などを知ることにより、BCPの対応の幅が広がります。

重要業務とともに、自社のリソースを整理しよう。(重要業務分析 BIA)

  • 有名な孫氏の言葉に“敵を知り、己を知れば百戦危うからず。”というものがあります。BCPにおいてもこの考え方を応用して、リスクのみならず己も知るようにしましょう。
  • 重要業務、即ち宿泊客や受け入れ被災者などにライフラインを提供するためのリソースを明確にしましょう。例えば、ある想定のものとにどの程度の備蓄食料が必要か、水は大丈夫か、建物で破損しそうなところはあるか、などです。

平時に備蓄品や資金などを準備。

  • リスク評価や重要業務などを検討したら、対策を考えましょう。
  • 例えば、揺れや津波から設備、機材や機器の破損を防ぐためには、備品の固定、建屋の補強などが考えられますが計画的に行う必要があります。インフラの代替として発電設備を導入、補強する場合も、発電機の燃料設備も含め、資本、時間、計画が必要になります。
  • 人々の安全を確保するために、傷病者への対応も計画しておきましょう。AEDや担架の設置、従業員への応急処置教育の普及、医療機関への搬送計画などです。
  • また、発災後、ある程度時間が経過したのちは、避難所などへの支援物資の供給が期待できますが、地域の避難所として指定されている場合、積極的に自治体などと調整するとよいでしょう。CSR活動が活発な昨今、事前に食品会社などと協定を結んでおくのも一案です。

発災後のオペレーション

  • 柔軟な運用が求められる宿泊業。発災後にBCPを発動し、BCPにも基づいて円滑にオペレーションを行うためには、段取りを周知する必要があります。
  • 例えば、傷病者発生時の段取り、情報収集・情報提供の段取り、水・食料配布の段取りなどです。水・食料配布についても、収容人数、必要カロリー、水・食糧など救援物資の到達見込み、移動手段の復旧見込み等を考慮して配布量を調整する必要があるでしょう。

インバウンド対応

宿泊業のBCPにはインバウンド対応も含ませて!

・2024年の日本へのインバウンド(訪日外国人旅行者)数は、 約3,687万人 に達し、過去最高となりました。

・インバウンド対応をBCPに含ませることは、必須といえるでしょう。

・英語などの案内、ガイダンスなどを事前に準備しておくと便利でしょう。

・例えば、自ら情報を収集してもらうために通信確保要領や、NHKなどの外国語アプリの案内、在日大使館の連絡先などのガイダンスがあれば大きな助けになると思います。

 

 以上、宿泊業でBCPを策定する場合の考慮事項などについて見てきました。お悩みの場合は、ぜひBCPコンサルタントをご活用ください。