社会生活の血液の役割を果たす運送業にこそレジリエンスを強化するBCPが必要。

 社会生活の血液の役割をもつ運送業。特に生活や生命維持に必要な医薬品などにかかわる運送は危機の時にこそ、その機能を果たすことが期待されます。困難な状況の中で、その重要な業務を継続することにより、売り上げのみならず、顧客、社会からゆるぎない信頼を獲得することができると思います。大きな使命を担う運送業にとって、その備えとなるBCPの策定は必須です。ここでは宿泊業でBCPを策定する場合の考慮事項等について説明します。

運送業におけるBCPの特性

 危機においてこそ運送の使命がより求められる運送業は、行政からもその業務遂行に関して特段の配慮がなされることもあります。社会活動の重要な一機能であることも踏まえて、運送業におけるBCP上の特性を列挙します。

運送業の一般的な特性(他業界との比較) 事象リスクにおける細部リスク例
人、車両など運送にかかるリソースが明確・人や車両などのリソースがなければ業務を行うことができない。
・人については出勤の困難化、職場復帰の長期化、従業員等の被災・感染等
・車両などの輸送手段の毀損
道路や給油所などの輸送インフラに大きく依拠→輸送インフラが機能しない場合、オペレーションに大きく影響
大災害時に行われる交通規制や道路混雑などが大きく影響→経路が取れない場合、業務の遂行不可又は遅延等
サプライチェーンに大きく依拠→依頼主、送り主の状況がオペレーションに大きく影響
多くの資本を必要とする。→従業員への給与等資金繰りが困難になる可能性

                  

使命を果たすために。宿泊業のBCPで考えるべきこと

 上記運送業の特性(他業界との比較)・リスクを考えると、危機事態が発生した場合、運送業務を遂行して企業の存続が危ぶまれるほど大きな影響を受ける可能性があることが分かります。BCPを中心とした対策、備えがないと太刀打ちできないでしょう。運送業にとってBCPは必須の経営資源です。運送業の特性・リスクを踏まえて、運送業BCPで考えるべきことを説明します。

リスクアセスメント(RA)。リスクを知るとともに、輸送路の防災体制を把握しよう。

  • 例えば南海トラフ巨大地震が発生した場合、どのような被害が想定されるのか、自治体のハザードマップなどを利用して自社の事業所でははどの程度の震度、津波な予想されるのかなどをしっかり把握しましょう。
  • 地域の防災体制を把握しましょう。給油所、避難所、臨時救護施設などを知ることにより、BCPの対応の幅が広がります。
  • 輸送経路の被害想定を把握しましょう。道路や橋梁、代替経路など。
  • 交通規制計画を把握しましょう。都道府県警察のホームページなどに掲載されている場合があります。交通規制計画をもとに、渋滞状況も見積もりましょう。

重要業務とともに、自社のリソースを整理しよう。(重要業務分析 BIA)

  • 有名な孫氏の言葉に“敵を知り、己を知れば百戦危うからず。”というものがあります。BCPにおいてもこの考え方を応用して、リスクのみならず己も知るようにしましょう。
  • 重要業務、即ちどうしても届けなければならないモノ、場所、そしてその重要業務を遂行するためのリソースを明確にしましょう。
  • 事業所のパーク地区、給油施設などの状況も確認し、どの程度のダメージを受けるのか見積もりましょう。
  • また取引先の状況把握も非常に重要です。取引先とコミュニケーションをとり確認しておきましょう。

平時に計画や資金などを準備。

  • リスク評価や重要業務などを検討したら、対策を考えましょう。
  • 従業員の参集要領などを計画しておきましょう。人々の安全を確保するために、傷病者への対応も計画しておきましょう。AEDや担架の設置、従業員への応急処置教育の普及、医療機関への搬送計画などです。
  • 発災後の道路状況等などの情報は、事業を継続する上で欠かせません。通信インフラや電力インフラが機能しない場合でも、円滑に情報を入手できるスターリンクの導入をお勧めします。
  • 燃油や電力がなければ車両等を動かすことができません。燃油車で配布してもらう、自前である程度の燃油を確保する、などの準備が必要です。
  • 多くの資本をもつ運送業。しばらくの間入金が途絶えることを想定して資金なども準備する必要があるでしょう。

発災後のオペレーション

  • 発災後、各種情報などに基づいて柔軟な運用をしなければならないでしょう。いわゆるプランB,プランC、プランDなどを計画しておいて、決定していくような様相とまります。そのためには”使える”BCPを策定し、BCPを周知しておく必要があります。
  • 輸送業務中に発災する可能性大ですが、道路上で被災した場合に何をするかも重要な要素です。これらもBCPに含ませましょう。
  • いずれにせよ、運送業は発災後に多くのことを判断し決定し伝達しなければなりません。運行の可否、行先、経路、代替経路、燃油の入手方法などなど。判断し決定するためには情報が不可欠です。有能な情報チームを編成し、鍛えておくことが必要です。

交通規制・混雑への対応を!

通信インフラが機能しない場合でも情報収集を!

・大災害が発生した場合、通常大規模な交通規制が行われます。例えば東京であれば、大震災(震度6弱以上)が発生した場合、環状7号線内側への一般車両の流入禁止、環状8号線内側への一般車両の流入抑制、緊急自動車専用路となる高速道路や主要な国道等(7路線)における一般車両の通行禁止規制等が実施されます(道交法)。その後、緊急自動車専用路を優先的に緊急交通路に指定し、必要に応じて路線が追加追加されます(災対法)。

・事業を継続する場合、情報を入手し、整理して、社内で共有する必要があります。刻々と変化する情報を適時に入手して、整理するためにはチームを編成して組織的に行うのがよいでしょう。そのための計画も必要です。

・通信インフラが機能しない場合や電力を喪失している場合は、ラジオが有力な情報収集手段となりますが、視覚的に情報には劣ります。スターリンクと携帯電源を備えておけば、情報処理能力は飛躍的に向上するでしょう。

・また、可能であれば事前に業界団体などを通じて行政から通行許可証などを入手しておく必要もあります。

【東京都における震災時の交通規制計画図】

 

 以上、輸送業でBCPを策定する場合の考慮事項などについて見てきました。お悩みの場合は、ぜひBCPコンサルタントをご活用ください。