社会生活を支える小売業。一日でも早い業務再開が被災地を元気にする。

 様々な商品を直接消費者に提供する役割をもつ小売業。大規模スーパー、個人商店、百貨店、コンビニエンスストア、ECなど様々な業態があり取り扱う商品も様々ですが、直接消費者と接するがゆえに危機発生時の事業継続の状況が人々に与える影響は大きいといえます。支援物資以上のものが入手できることは単純にうれしいですし、地域が被害を受けている中、お店が開いているだけで日常生活への回復や復興を感じることができ、気分も明るくなるのではないでしょうか。

 また、昨今コンビニエンスストアは自治体から帰宅支援ステーションとして指定され、発災後の帰宅時に水や情報の提供など重要な役割を期待されている場合もあります。このような大きな使命を担う小売業にとって、その備えとなるBCPの策定は必須です。ここでは十店舗の小売業、とくに中小規模の小売業でBCPを策定する場合の考慮事項等について説明します。

小売業におけるBCPの特性

 個人消費者をお客様とする小売業は、社会と直接する業界といえます。社会と直接接するがゆえに危機発生時での立ち振る舞い非常に重要といえるでしょう。利益を維持することも重要ですが、リピュテーションを守り、向上させることがより重要といえるでしょう。小売業におけるBCP上の特性を列挙します。

運送業の一般的な特性(他業界との比較) 事象リスクにおける細部リスク例
電気、水などの基幹インフラに大きく依拠→・電源などの喪失により、冷蔵などが必要な商品が毀損する可能性
・電源、水の喪失により食品の加工などができない。
・電源の喪失により、商品の管理など困難
消費者が直接手に取れるように商品を展開→揺れ、浸水などにより商品が毀損する可能性
サプライチェーンに大きく依拠→卸、運送の状況がオペレーションに大きく影響
地域の被災状況が集客に大きく影響→消費者が店舗まで移動できない場合、売り上げに影響
緊急時にこそ人手を必要とする。→・人については出勤の困難化、職場復帰の長期化、従業員等の被災・感染等
個人消費者がお客様→(肯定的、否定的)評判が広まりやすい。

                  

人々を元気にするために。小売業のBCPで考えるべきこと

 地域に根差した活動がもとめられる小売業。小売業にとってBCPは必須の経営資源です。小売業の特性・リスクを踏まえて、小売業BCPで考えるべきことを説明します。

リスクアセスメント(RA)。リスクを知るとともに地域の防災体制も把握しよう。

  • 例えば南海トラフ巨大地震が発生した場合、どのような被害が想定されるのか、自治体のハザードマップなどを利用して自社の店舗及び店舗からの徒歩圏でははどの程度の震度、津波な予想されるのかなどをしっかり把握しましょう。
  • 地域の防災体制を把握しましょう。給水所、避難所などを知ることにより、BCPの対応の幅が広がります。
  • 卸など取引先が所在する地域の被害想定なども把握しておきましょう。

重要業務とともに、自社の状況を整理しよう。(重要業務分析 BIA)

  • 有名な孫氏の言葉に“敵を知り、己を知れば百戦危うからず。”というものがあります。BCPにおいてもこの考え方を応用して、リスクのみならず己も知るようにしましょう。
  • 重要業務、即ち重要商品を決定しましょう。スーパーなどであれば水(文字通りの”水”だけとは限りません。下記「実際の被災地での経験から」をご覧ください。)、食料、衛生用品などになるでしょう。東日本大震災時の被災者の方々からのヒアリングなどにより、何が役にたったか、必要だったなどについての情報も公開されています。それらも参考にしつつ決定するとよいでしょう。
  • 重要商品を販売するためのリソースを明確にしましょう。
  • 店舗の状況を把握しましょう。棚は固定されているか。電力がない場合に会計業務を遂行できるかなどです。
  • また取引先の状況把握も非常に重要です。取引先とコミュニケーションをとり確認しておきましょう。

平時に計画や資金など必要なものを準備。

  • リスク評価や重要業務などを検討したら、対策を考えましょう。
  • 従業員の参集要領などを計画しておきましょう。人々の安全を確保するために、傷病者への対応も計画しておきましょう。AEDや担架の設置、従業員への応急処置教育の普及、医療機関への搬送計画などです。
  • 東日本大震災では、移動販売により業務を継続し被災者の方々から喜ばれた、といった事例もあります。テント、机、発電機など移動販売に必要な物品を準備しておくとよいでしょう。
  • 燃油や電力がなければ車両等を動かすことができません。燃油車で配布してもらう、自前である程度の燃油を確保する、などの準備が必要です。
  • 従業員への給与支払い、商品の買い付けなどのための手持ち資金を準備しておきましょう。

発災後のオペレーション

  • 発災後のオペレーションもBCPに含ませる事項です。BCPがあるとないとでは発災後の活動が大きく異なってきます。しいては復興後将来にわたる事業に大きな違いがでてきます。
  • 発災後は、従業員の安全を確保しつつ、店舗、商品の状況を確認する必要があります。売れる商品を整理しましょう。発災から間もない期間は、ボランティア活動として商品を被災者に無償提供することも一案でしょう。
  • 被災者のニーズをつかみ、移動販売も検討・実行しましょう。
  • 店舗が被害を受けた場合は、BCPを速やかに修正するなどして回復計画を立てましょう。一日も早い本営業再開が、地域に元気を与えます。

実際の被災地での活動の経験から

被災地での活動の経験から

被災地では生命維持のためのモノだけでなく、生活、作業のためのモノも必要

・通常、大災害が発生した場合、物流が停滞、停止しモノの入手が困難になります。

・多くの車両、航空機、艦船などを有する自衛隊が投入されると負傷者等の捜索救難活動とともに、支援物資を届けるための活動も開始されます。民間の流通が不能な場合においても、有事を想定し設計されている自衛隊は、有事の流通網を構築することができます。

・自衛隊による有事の流通網が機能し始めると、避難所などへ水・食料、毛布など生活に最低限必要な物資が届られます。東日本大震災の経験では、時間の経過とともに自衛隊の輸送活動がのってくると全国から避難所にどんどん支援物資が集まり、ある時期にはモノがあふれる、といったことも見られました。

・ただし、モノの量は十分でもモノの種類は十分ではなかったと思います(統計資料に基づくものではなく、あくまで個人の感想です。)。この点でも被災者の方々は多大な不便を感じたと思料します。

・私個人の経験で恐縮ですが、被災地現地での活動が長期に及ぶと単なる水でなく味のついた飲料水を切望するようになりますし、幕僚として計画作成などの作業をしていたとき、指揮官として現場を駆け回っていたときなどはチョコレートを無性に口にしたくなったこともありました。

・もちろん、被災者に十分な量の生活物資を速やかに届けることは必要ですし、被災地の自治体や全国からの支援物資に対しては感謝することと思います。支援物資に加えて、避難生活が長くなればなるほど個人のし好に基づき個人でモノを選んで消費する、といった行為も非常に重要であると考えています。かような観点からも小売業のBCPは重要でしょう。

 

 以上、小売業でBCPを策定する場合の考慮事項などについて見てきました。お悩みの場合は、ぜひBCPコンサルタントをご活用ください。