多くの人命を預る学校は、特に初動対応を重視したBCPが必要。

 世の中には様々な種類の学校があり、その使命も様々だと思いますが、概して学校の使命は、被教育者の発達段階などに応じて,目的に応じた教育を施し、被教育者の成長を助け、社会に貢献すること、といってよいでしょう。被教育者、教育者、関係者などの安全を確保して、教育に必要なアセットなどを保全することは事業継続の前提条件になると思います。

 また、小中学校、高校などは、自治体から災害時等の避難所として指定されている場合が多いことから分かるように、コミュニティをつなぐ重要な集合場所として位置づけられていると思います。危機に際しては、社会からのニーズにも確実に答える必要がある学校にとって、そのその備えとなるBCPの策定は必須です。ここでは主に未就業者に教育サービスを提供する小中学校、高校、大学などでBCPを策定する場合の考慮事項等について説明します。

学校におけるBCPの特性・課題

 子供、若者などの未就業者が被教育者である場合が多く、特に災害時などには安全を確保する配慮が求められるとともに、危機の際には社会に安全・安心を提供することを期待される学校。感染症や自然災害において避難所等としても機能し得ることも踏まえて、BCPの特性などを列挙します。

学校の一般的な特性(他業界との比較) 事象リスクにおける具体的リスク例
被教育者(多くの場合、未就業の者)の安全確保への配慮が特に求められる。→被教育者は、教職員の指示により一斉に安全のための行動をとることが多い。指示等が不適切であると一気に命にかかわるリスクが増大する。
学校施設の耐震性、保全等がより重要→損壊等した場合は、非教育者、教職員の安全に影響
上下水、電気などのライフラインに大きく依拠→水などの確保に大きく影響
災害などリスク事象が生起、長期化する場合、被教育者(多くの場合、未就業の者)の生活などにも配慮する必要性→安全、安心確保、教育継続に大きな影響を及ぼす可能性
事業(教育)継続のためのリソース(教員、教材)は代替が困難である
傾向がある。→
教員、教材が確保できない場合、教育継続に大きな影響を及ぼす可能性
被災者の避難所、集合場所等として期待される場合がある(平素から自治体などと協定を結び避難所として指定されている場合もある)。・施設などが機能しない場合、ニーズにこたえられない可能性。

                  

使命を果たすために。学校のBCPで考えるべきこと

 上記学校の特性(他業界との比較)・リスクを考えると、危機事態が発生した場合、被教育者を守ること、社会からの期待に応えることが簡単でないことが分かります。BCPを中心とした対策、備えがないと太刀打ちできないでしょう。学校にとってその使命を果たすためBCPは必須の資源です。学校の特性・リスクを踏まえて、学校BCPで考えるべきことを説明します。

方針の確立、周知。使命、教育の目的、被教育者、学校組織の特性などを踏まえて方針を熟考しましょう。

  • 方針はBCPの核となるものですが、学校によってその設立目的や理念、被教育者など千差万別だと思います。被教育者や教職員の安全確保が最優先となることは疑いないことだと思いますが、教育の継続はどのように考えるのか、教育終業基準をどのように考えるか、などを十分に検討しましょう。
  • 学校施設が避難所などに指定されている場合は、避難所施設運営の観点からの方針も検討する必要があるでしょう。自治体などとの取り決めにより、施設を貸し出すだけで避難所運営には携わらない、といった場合が多いとは思いますが、社会が期待する形で学校施設を避難所運営可能な程度に維持することは重要です。コミュニティ貢献の観点からも方針検討の範囲に含めるようにしましょう。

リスクアセスメント(RA)。リスクを知るとともに、地域の防災体制を把握しよう。

  • 例えば南海トラフ巨大地震が発生した場合、どのような被害が想定されるのか、自治体のハザードマップなどを利用して学校ははどの程度の震度、津波な予想されるのかなどをしっかり把握しましょう。
  • 被教育者、教職員の安全に関わるリスク評価を重視しましょう。転倒、転落、津波巻き込まれなど多くのリスクが考えられます。
  • 学校施設の状況を把握しましょう。公立の小中学校などでは、専門家による耐震検査などが既に行われていると思いますが、間隔があくと思います。小規模の地震が発生した場合など施設の状況を確認しましょう。
  • すでに、通学、通勤路上の危険個所の把握などが行われていると思いますが、忘れずにアップデートしていきましょう。
  • 地域の防災体制を把握しましょう。避難所に指定されている近隣他校状況、その他同じ市町村などの給水所、避難所、臨時救護施設などを知ることにより、BCPの対応の幅が広がります。

学校の重要業務を整理しましょう。(重要業務分析 BIA)

  • 有名な孫氏の言葉に“敵を知り、己を知れば百戦危うからず。”というものがあります。BCPにおいてもこの考え方を応用して、リスクのみならず己も知るようにしましょう。
  • 安全確保のためには、災害時では避難誘導など、感染症では感染防止のためのの業務が必要になってくると思います。一度安全確保のための業務を細分化して考察し、その中で重要な業務を特定しましょう。そしてその業務を遂行するためのリソースを明らかにしましょう。
  • 重要業務を検討し整理しましょう。最重要業務は安全確保になるでしょうが、教育継続の中での重要業務検討しましょう。もし、教育リソースが限られていて、かつ卒業時期を延ばすことができない、といった状況であるならば最上級学年の教育継続が重要業務になるでしょう。重要業務を決定したならば、そのためのリソースを明確にしましょう。

平時に重要業務遂行のための準備を。

  • リスク評価や重要業務などを検討したら、対策を考えましょう。
  • 例えば、揺れや津波から設備、機材や機器の破損を防ぐためには、備品の固定、建屋の補強などが考えられますが計画的に行う必要があります。インフラの代替として発電設備を導入、補強する場合も、発電機の燃料設備も含め、資本、時間、計画が必要になります。
  • 人々の安全を確保するために、傷病者への対応も計画しておきましょう。AEDや担架の設置、従業員への応急処置教育の普及、医療機関への搬送計画などです。
  • 重要業務分析で明らかにした、業務遂行のためのリソースについても対策しましょう。例えば、被教育者の安全措置をとるために、教職員の適時適切な指示が必要であれば、教職員に対し平素からそれ専門の教育・訓練を行うことが望ましいでしょう。避難誘導が重要であれば、校内放送の手順や、校内放送が機能しない場合に備えて各種バックアップ体制を確立しておくなどです。

発災後のオペレーション

  • 柔軟な運用が求められる学校での。発災後にBCPを発動し、BCPにも基づいて円滑にオペレーションを行うためには、段取りを周知する必要があります。
  • 例えば、傷病者発生時の段取り、情報収集・情報提供の段取り、水・食料配布の段取りなどです。水・食料配布についても、収容人数、必要カロリー、水・食糧など救援物資の到達見込み、移動手段の復旧見込み等を考慮して配布量を調整する必要があるでしょう。

外国人の被教育者対応

学校のBCPには外国人対応も含ませて!

・近年、外国人の就学者が増加しているといわれていますが、この傾向は今後も続く可能性があります。

・被教育者に今現在外国人の方がいない場合でも、将来入学する可能性がある場合は、外国人に適切に対応できるように準備しておいた方がよいでしょう。

・例えば、イスラム教の方が就学している場合、ハラルフードなど食事に配慮を要します。日本語能力が十分でない就学者がいる場合、安全確保のための各種指示を出す場合、日本語のみでは十分でないかもしれません。

・いろいろな状況を事前にシミュレーションして、BCPに反映させる必要があります。

 

 以上、学校でBCPを策定する場合の考慮事項などについて見てきました。お悩みの場合は、ぜひBCPコンサルタントをご活用ください。