【コラム BCP 危機管理】台湾有事特有の考慮事項 

BCPを策定する際に。

 台湾有事は、「一つの中国」政策を党是とする中国が台湾に侵攻することによって生起します。一言で「侵攻」又は「有事」と表現しても、その侵攻形態は海上封鎖や金門島などの台湾にとっての島しょ部への侵攻で留まるものから、本格的な着上陸侵攻に至るものまで大きな幅があります。ただ、「一つの中国」政策を具現するためには台湾島の実効支配が必要であり、究極的、将来的には実行支配のための着上陸作戦と行うでしょう。実際、中国人民解放軍は陸上部隊を含めたPower Projection戦力投射能力を着々と構築しています。

 2023年1月、米国を代表する政策シンクタンク 戦略国際問題研究所(CSIS)は中国が台湾へ軍事侵攻した場合の図上演習の結果を公表しました。そのシミュレーションの”基本ケース(Base case: the most likely value of a given variable)”では自衛隊も米軍、台湾軍とともに台湾有事の主要なプレーヤーとなっています。(※)。 複数の大国が交戦する戦争・紛争となるとその影響はグローバルに及び、企業活動にも広範かつ深刻な影響を及ぼすことになるでしょう。

※ 中国の作戦形態、政治判断によりますが、自衛隊法、日米安保条約などに基づき国民保護、我が国防衛、米軍支援などのため様々な形態での自衛隊の作戦行動が想定されます。

 ここでは、危機管理や事業継続計画(BCP)策定などにおける台湾有事特有の考慮事項などについて列挙します。

Danger

現地の社員やご家族様等の安全確保/組織の財産の保全

【在台湾】

・戦争状態となり、中国軍に本格的な着上陸作戦が行われた場合、駐在員等は戦闘に巻き込まれる可能性が生じ生命に危険が及ぶ。

・オフィスや工場などの財産も毀損されるリスクが生じる。

・開戦が近づくにつれて、重要な戦略拠点である台湾島の主要空港や港湾は台湾軍による使用統制が行われる。また、台湾島周辺海域・空域も有志連動による作戦統制が行われる。すなわち、国外退避のタイミングを誤った場合、いわばドツボにはまる。

【在中国】

・自衛隊が作戦行動をとった場合中国にとって交戦国となるが、いわゆる反スパイ法などにより拘束されるリスクが高まる。

・反日感情の高まりが想定され、危害が及ぶ可能性も。

・戦時に適用される国家動員法などにより、財産などが接収される恐れ。

Danger

現地での事業

【在台湾】

・戦時下となり事業の継続が困難になる可能性。特に台湾島南部に中国軍が上陸作戦を企図した場合、台南、高雄などの都市部は経済活動自体が困難になる恐れ。

・台北など台湾島北部に中国軍の他規模侵攻が及ばない場合においても、サイバー攻撃、電力、上水などの重要社会インフラに対するミサイル攻撃などが予想されるため、事業の継続は困難。

【在中国】

・反日感情の高まりが想定されるが、反日感情に起因する暴力行為、サボタージュなどにより事業の継続が困難になる可能性。

・戦時に適用される国家動員法などにより、財産などが接収される事業の継続が困難になる可能性。

Warning

サプライチェーン等(リージョナル)

・バシー海峡などは作戦の影響を受けるため、シーレーンが混乱しサプライチェーンが機能しなくなる可能性。

・輸入エネルギー、原材料高騰の可能性。

・戦時に適用される国家動員法などにより、中国関連の輸出入は不能となる可能性。

Warning

サプライチェーン等(グローバル)

・輸入エネルギー、原材料高騰の可能性

・アフリカなど中国企業は世界各地に進出しているが、国家動員法により中国本土に所在する中国企業との取引が困難になる恐れ。